視察報告1.神奈川県における受動喫煙防止条例
市民の健康、命を守ることこそ政治の役目であり、また世界各国から多くの方が訪れる国際都市、観光都市「京都」の都市格向上に向け、わが町京都でも他人の喫煙の煙から受ける健康被害をなくす受動喫煙防止条例をぜひとも取り入れていきたいという思いから、京都党の視察では、日本で初めて神奈川県において受動喫煙防止条例を制定した元神奈川県知事であり、現参議院議員松沢成文氏の元へ制定までの話を聞きに、さらには現在の神奈川県庁にてさらに現在の受動喫煙防止条例の現状を聞きに伺った。
●そもそも受動喫煙とは??
タバコを吸わない人が、ほかの人のタバコの煙を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」という。受動喫煙があるとタバコを吸わない人の体内からも、実際にタバコの煙の成分が検出され、吸わない人も自分の意思とは関係なく、喫煙している状態になる。
たばこの煙にはニコチン、種々の発がん物質・発がん促進物質、一酸化炭素、その他多くの有害物質が含まれている。
「受動喫煙による健康被害」
- ・すぐにあらわれる症状
- 目の痛み、目がしみる、のどの痛み、咳 など
- ・長期的な影響
- 肺がん、脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患、喘息 など
- ・新婦、新生児への影響
- 流産、早産、乳幼児突然死症候群(SIDS)、新生児の低体重化 など
●神奈川県における受動喫煙防止条例制定までの背景
そもそも日本は世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」批准国である。2003年に我が国は条約に署名、2004年に条約は発足。
さらに2007年には条約締約国により「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」に全会一致で採択されている。このガイドラインには「100パーセント禁煙以外の措置(換気・喫煙区域の使用つまり分煙)は不完全である」「すべての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである」「たばこの煙にさらされていることから保護するための立法措置は、責任及び罰則を盛り込むべきである」などといった内容が盛り込まれている。また、わが国では2003年「健康増進法」が施行され第25条では多数の者が利用する施設における受動喫煙防止措置が努力義務として課せられた。
あくまで努力義務であり規制措置を定めていないため、多くの事業者の方々の努力により受動喫煙防止措置は一定の効果を上げているものの、たばこ規制枠組み条約のガイドラインからは程遠い位置にあった。
本来、国が主導で責任をもって実施すべきことである。しかしながら国の対応を待っているわけにはいかない。以下の理由をもって神奈川県から日本初受動喫煙防止条例が制定への取り組みが始まった。
- 第一の理由
- 受動喫煙防止なくしてがん対策はあり得ない。
受動喫煙による健康被害を防止。予防医療、医療費削減、生活習慣病予防。 - 第二の理由
- 国民の健康を所轄する厚生労働省とたばこ税を所轄する財務省の利害対立により受動喫煙防止対策が行き詰まっている現状の打破
- 第三の理由
- 受動喫煙防止という世界の潮流を神奈川から発信し、先進都市としてのブランドイメージを高め国際的な都市間競争を勝ち抜く
●条例施行までの苦労
タバコ関係業界(JT株式会社、タバコ小売店組合など)からの反対から始まり、旅館やホテルの宿泊施設、飲食業,喫茶店、風俗営業の関係者(パチンコ店、麻雀店など)といった喫煙できることが習慣化されている場所の経営者からの多くの反対や分煙設備設置そのものができない小規模な店舗店主からの反対、分煙設備導入が経済的困難な店主や経営者からの反対など様々な逆風の中この条例制定の動きが始まった。
さらに進めていく中で浮上したのが「県境問題」。神奈川県でたばこが吸えないなら隣接している他都市に人が流れてしまうかもしれない。そうなると顧客が逃げて商売に悪影響しか生まれないといった声まで上がった。
その他さまざまな問題に直面し、様々な反対の声の中、当時の松沢氏がこだわったのは、
「現地を見て、現場の声を聴く」現場主義の徹底!であった。
こう条例が現実のものになった場合、すべての喫煙者、非喫煙者、さらには不特定多数の人が利用する施設の関係者が何らかの形でこの条例の当事者となり生活や事業活動が影響受けることを鑑み、より丁寧にきめ細かく現地の状況を見て、意見交換を行う必要があるとの考えだったという。
神奈川県民における喫煙規制への意識調査、保険医療の専門家、法律の専門家、規制対象となりうる商工業や中小企業の関係者、一般市民代表などを含めた検討委員会の設置、県民や関係事業者との度重なるふれあいミーティングの実施。国内外に及ぶ視察など。それは2年にも及ぶ長い取り組みの末に2010年4月、日本初、神奈川県にて受動喫煙防止条例が制定された。
●現在の神奈川県における受動喫煙防止条例の運用
条例施行時から完全禁煙は見送られたものの、現在では規制対象施設を約2種(特例を除く)に分け禁煙、分煙の規制をかけ、この条例の運用を行っている。
- 第一種施設→完全禁煙
- 幼稚園、小学校などの各種学校、病院など
- 第二種施設→禁煙または分煙
- 飲食店、ホテル、旅館、パチンコ店など
ただし上記2種類にも区分できない施設は努力義務として扱われている
- 特殊第二種施設
- ・風営法第一号から第七号までに掲げる営業の用に共にする施設
- ・事業の用に供にする床面積の合計から調理場を除いた面積が100㎡の小規模な飲食店
- ・床面積の合計が700㎡以下の小規模なホテル、旅館など
- その他条例適用外の施設もあるが実際は10件程度である。
- ・時間分煙(ランチタイムのみ禁煙など)は第二種施設の分煙には認められない。
- ・県職員が定期的に第二種施設の店舗を個別訪問し、禁煙の促進を行っているとのこと。
- ・県民の受動喫煙防止条例に対する認識は65%と高めで、中には禁煙義務を怠っている店に対する通報も県庁にあるとのこと。
- ・条例に対し3年ごとの見直しがある
●まとめ
条例化を進めていく難しさはとても感じたが、しかしながら受動喫煙というものが私たち市民に多大なる健康被害をもたらすことを改めて認識した。政治、行政の本来の役割は市民の生命と財産を守ることであるという大前提立ち戻った時に、予防医療、医療費削減、がん対策様々な側面から受動喫煙に対策を講じず、野放しにしているようでは政治、行政の役割を果たせてないように感じた。さまざまな危険性が指摘されている受動喫煙の防止を単なる「マナーアップ」という一人一人の良識のみに委ねるだけでは受動喫煙から逃れられない。ましてやお年寄りや子供、妊婦などの社会的弱者はなおさらである。条例でしっかりと規制し吸う人も吸わない人も快適な京都市に。
また国際都市、観光都市「京都」から受動喫煙防止を発信し「空気のきれいな街京都」といったブランドイメージ向上も目指したい。
さらに世界遺産、文化遺産の多い京都。文化財を守る意味でもぜひとも京都でも受動喫煙防止条例の施行を目指したい。